最近の関与案件

株式会社ラクスによるPT Srikandi Mitra Sukses(74.5%株主)からの、インドネシアのPT Cipta Piranti Sejahteraの14.9%株式買収について、中田順夫、山崎真理の各弁護士が株式会社ラクスのカウンセルを務めました。
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株式会社インテグリティ・ヘルスケアとNTTプレシジョンメディシン株式会社の資本提携について、井上俊介弁護士が株式会社インテグリティ・ヘルスケアのカウンセルを務めました。
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NISSHA株式会社による滋賀県製薬株式会社の株式の取得(子会社化)について、関口尊成、名古屋秀幸、春山莉沙の各弁護士がNISSHA株式会社のカウンセルを務めました。
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ニッコンホールディングス株式会社による中央紙器工業株式会社に対する公開買付けに関して締結されたニッコンホールディングス株式会社とトヨタ自動車株式会社の間の取引基本契約について、井上俊介弁護士がトヨタ自動車株式会社のカウンセルを務めました。
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現在継続中のM&A/JV案件 アメリカ5件、ドイツ2件、チェコ共和国1件、インド3件、中国1件、タイ3件、インドネシア2件、マレーシア1件、シンガポール3件、ベトナム1件、台湾1件、グローバル3件、国内25件など多数進行中。


最新トピック

『J-KISS型新株予約権と活用場面』
文責 中井直子


J-KISS型新株予約権(J-KISS)は、シード期におけるスタートアップ企業のための簡易な資金調達手法として注目されるものです。アメリカで広く活用される「KISS」を参考に、日本型にアレンジしたものですが、「KISS」は、"Keep It Simple Security"の略であり、その主眼は、簡単に早く資金調達を実施することにあります。

スタートアップ企業において、最もポピュラーな資金調達手法は、創業者が保有する普通株式に比べて優先的な条件が付与された優先株式によるものです。ただ、優先株式の場合には、どのような優先的な条件を付けるのか、株価をどのように算定するのかといった発行条件の交渉・契約書の締結等に時間を要することがネックとなっています。また、シード期においては、適切なバリュエーションを算定することが困難ということもあります。

そこを解消するのが、J-KISSによる資金調達であり、①簡易・迅速な資金調達の実現、②バリュエーションの決定を先送りできる、という点がメリットとされています。J-KISSへの出資により、投資家が取得するのは新株予約権です。仮に、新株予約権1個の発行価額を100万円とした場合、1,000万円を出資した投資家は10個の新株予約権を取得することになります。

①のメリットとして、投資契約や新株予約権の内容(発行要項)のパッケージがひな型としてCoral Capitalより公開され、広く共有されています。また、J-KISSの場合、発行の際に決めなくてはならない変数が少ないというのが特徴です。通常、想定される変数は、新株予約権を行使するためのトリガーイベント、ディスカウント率、転換期限等です。

J-KISSにおいて、一般的に想定されているトリガーイベントは、次回ラウンドの資金調達です。次回ラウンドとして、「1億円以上」のシリーズAの資金調達が該当するように設計されることが多く(適格資金調達)、J-KISS保有者は、新株予約権を行使することにより、適格資金調達にて発行される優先株式と同種の優先株式を取得することが想定されています。

「同種」の優先株式とされるのは、シリーズAの投資家が取得する優先株式と、J-KISS保有者が転換権を行使して取得する優先株式とでは、発行価額の点が異なるからです(そのため、実際には、A1種、A2種といった異なる優先株式が発行されます)。②のメリットであるように、J-KISSを発行する際には、株価のバリュエーションは実施されません。その為、J-KISSを行使の際の転換価額は実際には定まっておらず、出資の時点では将来的に取得する株式の内容・数が決まっていないことになります。

J-KISS行使のトリガーイベントに当たる、適格資金調達における転換価額は、「ディスカウント」と「バリュエーション・キャップ」という仕組みにより、いずれか低い額に決定されます。ディスカウントとは、適格資金調達での発行条件と比べて、どれだけ安価に株式を取得することができるかという割引率を指します。新株予約権での出資者の方が、次回のラウンドの投資家よりも先にその企業に投資を実行しているので、先行投資分の利益をディスカウントで得られるのが、J-KISS出資者のメリットです。ディスカウント率は、自由に定めることが出来ますが、一般的に0.8倍の設定が多く、複数回J-KISSを発行している場合に、後のJ-KISS発行時のディスカウントは0.9倍とする等、ディスカウント率に差を設けるケースもあります。仮に、適格資金調達における優先株式の発行価額が、1株5万円とした場合、J-KISS保有者の転換価額(発行価額)は0.8倍の4万円ということになり、先の事例で10個の新株予約権を行使する場合に、1,000万円÷4万円=250個の同種の優先株式を取得することになります。バリュエーション・キャップは、転換価額に一定の上限を設ける仕組みであり、バリュエーション・キャップを適格資金調達直前の「完全希釈化後株式数」で割った金額が転換価額の上限となります。ディスカウントにより算出される転換価額がこれを上回る場合、この上限額が転換価額となるので、J-KISS出資者は、適格資金調達時の株価にかかわらず、一定の価格以下での株式の取得を担保されることになります。

このように、J-KISSの出資者は、次の適格資金調達にて発行される優先株式の株主となることが想定されているので、J-KISS発行時の投資契約にて、次回ラウンドでの優先引受権や事前通知義務等が規定されることが望まれます。手続き面では、J-KISSの発行は登記事項でもあるため、その仕組みにも慣れた専門家との連携は不可欠です。J-KISSが行使される場面では、適格資金調達と合わせて、手続きやタイムラインを考慮する必要がありますが、どうしても次回ラウンドの契約交渉の中で、忘れがちになってしまうケースも多いので、留意が必要です。


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